広島地方裁判所 昭和40年(わ)50号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕(罪となるべき事実)
被告人吉田光雄は、右のような状況のもとにあつた昭和三九年八月二三日午後三時五〇分ごろ、新洋タクシーを運転して、呉市本通一一丁目から中通九丁目方向に進行中、同市中通九丁目二九番地岡野内ふとん店前交差点に差しかかつたところ、中通八丁目から九丁目方向に進行して来た有限会社三光タクシーの非組合員である三浦徳一(当五八年)の運転する同社のタクシー(広五あ六六九〇号)を認めるや、同所において、突如として、右三浦の運転するタクシーの正面に突入させて、その直前で停車し、よつて三浦の運転するタクシーの進路を塞いで停車せしめ、続いてそのタクシーの右前部の窓から手を入れてエンジンキーを抜き取つて運転の自由を奪つたうえ、更にそのタクシーに乗り合せていた子供連れの婦人の乗客を他のタクシーに乗り移らせ、次に、被告人榎木は、被告人吉田らの連絡によりその現場に到着し、かつ同被告人からエンジンキーを受け取り、これにより同被告人の各行為を知つて、それらを了解し、かつ同被告人の意思を承継して、同日午後四時ころ、三浦のタクシーに乗り込み、運転席に坐つていた三浦を助手席に移らせて、その運転席に坐り、その後部座席には全自交呉支部組合員二人を同乗させて、同タクシーを組合員の待機している呉市本通一三丁目一三番地有限会社三光タクシーの車庫まで運転して、これを同車庫内に搬入し、もつて、被告人両名共謀のうえ、威力を用いて、右三浦の自動車運転業務を妨害したものである。
(証拠の標目)<省略>
(弁護人の主張に対する判断)
被告人両名の弁護人らは、会社のなしたロツクアウトは、組合側の争議行為がないのになした先制的攻撃的な点で違法であり、また、組合破壊もしくは会社の主張を一方的に押しつける目的でなした点で違法であり、あるいは、ロツクアウトの必要性がなくなつてからもなお継続した点で、また不当な長期にわたつた点でいわゆる過剰ロツクアウトであつて違法であり、あるいはまた、ロツクアウト中に非組合員を使用して操業した点で違法であるとして、被告人らのなした本件行為は、以上のような会社の違法なロツクアウトに対して、団結権を擁護するためになした対抗的防衛的な争議行為であるのみならず、正当防衛、緊急避難、期待可能性なしなど各要件を充足して、結局被告人らは無罪である旨主張している。
しかし、まず、組合が実施した前記のいわゆる安全運転は、その実施に至つた経緯、方法、結果、ことに、その実施期間中に限つて組合員の運賃収入が半減した事実などからして、名を遵法に藉り、その実質は、組合の主張を貫徹することを目的とした会社業務の正常な運営を阻害するもの、すなわち争議行為と認めざるをえない。従つてこれに対抗するための会社がしたロツクアウトは先制的、攻撃的ということができない。また、会社がその間非組合員、ことに、本件の場合のように従来からの従業員を使用して、右争議の範囲外において操業を継続することは自由であつて、何ら違法不当視することはできない。次に、前記ロツクアウトが、組合破壊もしくは会社の主張を一方的に押しつける目的でなされたということも、またロツクアウトの期間が不当に長すぎたとか、あるいはロツクアウトの必要性がなくなつてからもなおそれを継続していたということも、会社が他の会社とともに組合対策を乗じたというに止まり、直接その主張のようなことを意図したものとは証拠上、遂にこれを認めることができない。従つて、前記ロツクアウトは違法ではない。それゆえ、ロツクアウトの違法を前提とする主張は採用できない。また、被告人らの本件行為の如きは、結局、労働組合活動としての正当な範囲を逸脱するのみならず、争議行為としての正当性の限界をも超えるものである。弁護人のその余の主張は、いずれも、それを認めるに足る証拠がないか、あるいはその法律上の根拠を欠くものであつて、いずれも採用できない。(小竹正 角田進 山中孝茂)